低用量ピル 経口避妊薬
診療案内
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低用量ピルとは避妊の目的で内服する錠剤、つまり経口避妊薬です。
通称ピルと言われることが多く、英語ではOral Contraceptivesと言われ、最近ではOCと略されることも多くあります。
低用量ピル錠剤(経口避妊薬OC)に含まれる2種類の女性ホルモン(卵胞ホルモン・黄体ホルモン)のはたらきで、服用中は主に排卵がおこらない状態となり、妊娠を防ぐことができます。
まず、生理・生理周期の事について少し説明します。「生理痛がひどい(PMSや月経困難症)」や「生理不順(月経不順)と生理(月経)」の所でも記載しましたが、生理とは約1か月の間隔で子宮の内膜が出血を伴ってはがれ落ちる事を言います。
生理周期というのは、生理が始まった日から次の生理が始まる前日までのことです。日数で言うと25〜38日間と幅があります。先ほど「約1か月の間隔で」と書きましたが、そんな印象で結構です。この生理周期を作っているホルモンには卵巣から分泌される卵胞ホルモンと黄体ホルモン、脳下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)があります。これらのホルモンが上手に絡み合って生理周期がコントロールされています。生理は微妙なホルモンバランスの上に成り立っているわけです。
生理周期は増殖期、分泌期、月経期の3つに分けられます。増殖期は脳下垂体からFSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌されます。FSHが卵巣に作用して卵胞の発育が促され、卵胞ホルモンが分泌されます。卵胞ホルモンは子宮に作用して子宮内膜を厚くします。
卵胞が十分に発育すると脳下垂体からLH(黄体化ホルモン)が分泌され、その作用で排卵が起きます。排卵というのは卵胞の中から十分に発育した卵子が外へ飛び出すことです。排卵後の卵胞は黄体に変わります。黄体からは卵胞ホルモンに加え黄体ホルモンも分泌されます。それらが子宮に作用すると子宮内膜が柔らかくなって受精卵が着床できるように準備が整います。この時期を分泌期といいます。
妊娠しなかった場合は黄体が衰えて卵胞ホルモンと黄体ホルモンの分泌が急激に減少して、子宮内膜が剥がれて排出されます。これが生理です。
避妊の効果を表現する方法として、パール指数というものがあります。
パール指数とは、100人の女性がある避妊方を1年間実施した場合の妊娠数(つまり失敗数ということです)のことを言います。パーセント(%)で表されます。パール指数1%というのはその避妊方を1年間行った100人の女性のうち1人が妊娠したということです。パール指数が低いほど失敗が少ないということですので、良い避妊法だということになります。
本来はパーセントで表す数字ではないのですが、1〜100の間の数字ですので%を使っています。だから「率」ではなくて「指数」です。これがホントの避妊率を表しているのかはわかりませんが、パール指数は科学的な方法で算出されており信頼性は非常に高いのです。
また同じ方法で指数を算出しているので他の避妊法とも比較することができます。
低用量ピル(経口避妊薬)は理想的な服用の場合(つまり飲み忘れなどがないということです)のパール指数は0.3%で、飲み忘れなども考慮した服用の場合は8%と報告されています。一方、避妊をまったくしない場合のパール指数は85%程度と言われています。私の体感的にはもう少し低い気もしますが、不妊で受診される方もみえますのでそう感じるだけかもしれません。他の避妊法を見ますと、不妊手術(理想的な場合)では男性の避妊手術で0.1%、女性の避妊手術で0.5%、子宮内避妊具(銅付加IUD)で0.6%、子宮内避妊具(レボノルゲストレル放出IUD)で0.2%です。低用量ピル(経口避妊薬)の効果が非常に高いことがわかりますね。ちなみにコンドームのパール指数(一般的な使用の場合、トラブルもあったりしますから)は、18%です。
低用量ピル(経口避妊薬)でどうして妊娠が防がれるのかということですが、次のような作用があります。
お薬によって脳下垂体からのFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体化ホルモン)の分泌が抑えられます。
それによって卵胞の発育も抑えられ、排卵が防がれます。これが一番の働き(作用)です。
お薬によって子宮内膜の発育も抑えられます。
ですから、着床に適した内膜にならず妊娠が防がれます。これは副次的効果ですが、内膜の量が少なくなるので、月経血の量も少なくなります。この作用を利用したのがLEP療法です。
子宮の入口の部分(子宮頸管)の粘液を変化させて子宮内に精子が入りにくくします。
通常は子宮頚管粘液というのは粘度が高く、子宮頸管に蓋をしたようになっています。正常な生理周期の場合は卵胞の発育に伴って卵胞ホルモンの分泌が増えることによって、特に排卵の頃になると頚管粘液がさらっとした感じ(粘度が下がるのです)に変わって精子が入りやすくなります。低用量ピル(経口避妊薬)によって卵胞発育が抑えられるので卵胞ホルモンも増えず、頚管粘液の粘度が高いままで、子宮頸管に蓋をしたままになるというイメージでいいかと思います。
先の「低用量ピル(経口避妊薬)の避妊作用2:子宮内膜の発育抑止」のところで月経量が少なくなることをお話ししましたが、それも含めて低用量ピル(経口避妊薬)は避妊以外にも色々なよい効果が証明されています。
そして長期間使用しても、副作用が非常に少ないことも認められました。
子宮内膜の発育を抑えることにより、生理時の出血量が少なくなる
お薬で生理周期をコントロールしてしまうので、生理周期が規則正しくなるし、いつ生理がくるのかがわかるようになります。
月経血の量が少なくなるので、生理による貧血が起こりにくくなる
ニキビの改善・肌がきれいになる。ニキビの発生には皮脂腺が関わるのですが、アンドロゲン(男性ホルモン)の影響で皮脂腺が増大し皮脂分泌が亢進することが原因の一つです。女性なのにアンドロゲン(男性ホルモン)とはどういうこと?と思われるかもしれませんが、女性でもアンドロゲンは体内でできていて、代謝されて女性ホルモンができるのです。低用量ピル(経口避妊薬)によりアンドロゲンの産生が抑えられる(つまり作られなくなる)ことでニキビの発生が抑えられるというわけです。
その他には、卵巣がんのリスクを低下させたり、子宮体がんのリスクを低下させたり、大腸がんのリスクを低下させることが知られています。
血栓塞栓症という病気が起こることがあります。これは血が固まって栓のようにどこかに詰まることによって起こる病気です。
発生頻度は低いのですが、低用量ピル(経口避妊薬)を飲んでいない人の血栓塞栓症の発症頻度は1〜5/10,000婦人・年間です。それに比べて低用量ピル(経口避妊薬)服用者は3〜9/10,000婦人・年間に増加します。ちなみに妊婦は5〜20/10,000婦人・年間で、褥婦(分娩後の女性)は40〜65/10,000婦人・年間です。ですから、妊娠・出産に関するほどの副作用の上昇はありません。しかし、服用開始3か月以内が最も発症頻度が高いので注意が必要です。
症状は、ACHES(エイクスと読みます)という言葉で略されています。
A : abdominal pain = 激しい腹痛
C : chest pain = 激しい胸痛、息苦しさ、押しつぶされるような痛み。この場合の胸痛は乳房の痛みではなくて心臓や肺に血栓が詰まった時の症状です。
H : headache = 激しい頭痛
E : eye / speech problems = 見えにくいところがある、視野が狭い、舌のもつれ、失神、けいれん、意識障害
S : severe leg pain = ふくらはぎの痛み、むくみ、押すと痛い、赤くなっている
これらの症状は、どこに血栓が詰まったのかによるものです。Aは腹部の血管に、Cは心臓や肺の血管に、HやEは頭(脳)の血管に、Sは下肢の血管に血栓が詰まったというわけです。一番多いのが、Sのふくらはぎの痛みです。ふくらはぎの静脈か動脈に詰まって痛みという症状が出ます。通常はどちらか片側です。ふくらはぎが痛いので、婦人科ではない診療科に受診されて血栓塞栓症の発見が遅れてしまう場合はあります。この病気は疑わないとわからないのです。ですから、低用量ピル(経口避妊薬)を処方した時には、患者携帯カードというものをお渡ししています。そこには受診した医師にわかるように低用量ピル(経口避妊薬)を内服していること、血栓塞栓症の症状など色々な事柄が記載されています。低用量ピル(経口避妊薬)を内服されている方はこのカードをいつも持ち歩くようにしてください。
他に、体重が増えるのでは無いかと心配される方もいますが、諸外国の研究でも体重が増加した報告はありませんので、ご安心ください。
まず、1日の中での服用時刻ですが、寝る直前をお勧めしています。もはや寝るだけ、というタイミングで結構です。基本的にはいつ内服してもいいのですが、内服後に吐き気の出る方がたまにいらっしゃるのです。吐き気は内服して30分ほど経ってから始まります。多くの場合は3〜4日ほど飲み続けるとおさまるのですが、吐き気があるだけで低用量ピル(経口避妊薬)を挫折してしまっては元も子もありません。そこで寝る直前(眠くなって寝ようとする時)にさっと飲んですぐ寝てしまうと吐き気を感じないで済みます。一般的には寝る時間は3〜4時間程度の変動で済むことが多いですから、内服時間も一定になりやすいのでオススメです。
また、28日型のシートの低用量ピル(経口避妊薬)の場合はシートの錠剤の配列に従って内服し続けます。残りが3〜4錠になったところで生理が起こってきます。生理が終わっていなくてもシートの最後の錠剤を内服した翌日は新しいシートの1錠目を内服します。初めて低用量ピル(経口避妊薬)を内服する場合は、生理が始まったらすぐに内服されるのが良いです。遅くとも生理の5日目までに飲み始めてください。もしもそれより飲みはじめが遅くなった時には卵胞発育が始まってしまうので、コンドームなどの他の避妊法を併用する必要があります。
低用量ピル(経口避妊薬)を内服することで、妊娠しづらくなるのではないかと考えられる方もいるかもしれませんが、ヨーロッパなどの大規模な調査によれば、低用量ピル(経口避妊薬)中止後の妊娠率は通常の集団と変わらないことが報告されています。
低用量ピル(経口避妊薬)中止後の排卵についても、種々の検討がされています。製剤によって多少のばらつきはあるようですが、服用終了後3ヶ月以内にほぼ90%の症例で排卵が再開しています。
ちょっと話が横にそれますが、低用量ピル(経口避妊薬)を内服中でも妊娠を希望されない場合はコンドームの使用をされるのが良いでしょう。低用量ピル(経口避妊薬)はあくまで避妊のためのお薬であり、性感染症に関しては全く関係ありません。性感染症にもいろいろありますが、エイズなどの命に関わるものから、クラミジア感染症など不妊症の原因になるものもあります。性感染症予防にはコンドームが必要です。
低用量ピル(経口避妊薬)は産婦人科の医療機関で処方される薬です。ですから、医療機関へ受診する必要があります。
当院では、はじめて来院された方には、あらかじめご記入いただいた問診票をもとに問診し、同時に体重と血圧の測定をします。そこで、低用量ピル(経口避妊薬)が服用可能か、服用できる状態か、をよく検討し、服用可能な方にはお薬の説明をしたうえで処方しています。通常は内診することはありませんが、不正出血がある場合などでは内診する場合もあります。婦人科の病気が隠れているかもしれないからです。ほとんどの方は低用量ピル(経口避妊薬)を服用することができますが、一部で服用できない場合もあります。
また、2回目以降の来院でも毎回問診と体重・血圧測定、血栓塞栓症の症状が無いか、内服の状況(例えば、飲み忘れはありませんか?など)のチェックを行い、問題の無いことを確認の上処方しています。日本産科婦人科学会が作成したOC・LEPガイドライン2015年版では低用量ピル(経口避妊薬)を飲み始めたばかりの数か月は血栓塞栓症に対して慎重な対応が求められています。ですから当院でも初めの数ヶ月は1シート(1周期分)ずつの処方にしています。
生理痛がひどいという方は子宮内膜症と言う病気があるかもしれません。その場合は診察・検査の上で、必要な治療を行います。最近は低用量ピル(経口避妊薬)に近い薬が保険診療で処方できるようになり(避妊の効能はありませんが)、治療の選択肢が増えています。当院ホームページの「生理痛がひどい(PMSや月経困難症)」のページもご参照頂き、無理に我慢するだけでなく、一度ご相談ください。
避妊のための低用量ピル(経口避妊薬)は自費診療で、健康保険の適用はありません。(避妊は病気ではありませんから、健康保険は適用できません。)
値段は初回の投与時と、2回目以降の投与時で異なりますが、4,000円前後かかります。