予防接種が必要な病気の説明
診療案内
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それぞれの病気について説明します。
ヒブというのはHibの事です。Haemophilus influenzaeと言ってインフルエンザ菌という、のどにいる菌の中でb型莢膜(細菌を包む膜)を持つ菌の頭文字を並べた略称です。冬にはやるインフルエンザはインフルエンザウイルスによるもので、ヒブとは別のものです。
ヒブは、乳幼児に化膿性髄膜炎や敗血症、喉頭蓋炎などの重篤な感染症の原因となっていて、感染後の経過が不良なものも多くありました。
5歳以下のHib髄膜炎の罹患率は、Hibワクチン導入前の欧米、北アメリカ、アラスカ地域では、10万人対40~300でした。Hibワクチンを定期接種として導入した米国などでは、罹患率は着実に低下し、現在は、「ほぼ0」に減少したそうです。日本でも「ほぼ0」とまでは言いませんが同様の傾向がみられています。
多くの小児は肺炎球菌を鼻やのどに保菌し、しばしば中耳炎や肺炎を発症します。成人にも肺炎を起こしますが、その20~40%が肺炎球菌によります。(この場合でも通常は菌血症を伴いません。菌血症とは、病原菌が血液中に入ってくることです。)
しかし一方で、この菌は血液中に侵入し、主に小児や高齢者に侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease; IPD)を起こします。IPDとは通常無菌的であるべき検体から肺炎球菌が分離された疾患のことで、髄膜炎とそれ以外の菌血症を伴う肺炎や敗血症などがあります。
感染症発症後の経過が不良な例も多く、後遺症を残したり亡くなったりする例もあります。
肺炎球菌は型の数が多く90種類以上あるそうです。乳幼児向けのワクチンとして、これら90種類以上の中の7つの型に対して効果を持つ7価ワクチンが導入されました。これはかなり効果がありましたが、まだこの中に入っていない肺炎球菌の感染症があったことから、さらに6つの型を加えた13価ワクチンが2013年11月からわが国でも導入されています。これによってわが国でも欧米と同じように重症な肺炎球菌感染症が激減しています。
また、わが国では23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPV23)が1988年に薬事承認されました。
今盛んにテレビコマーシャルでも放映されている高齢者向けの肺炎球菌ワクチンはこれのことです。
これまでに、PPV23は「免疫不全のない高齢者において、ワクチン血清型によるIPDを予防する」とされていましたが、さらに研究が進みPPV23接種による高齢者における肺炎球菌性肺炎の予防効果や肺炎医療費の削減効果が報告されています。
つづいて「四種混合ワクチンで予防される病気」についてです。
四種混合の四種というのはジフテリア・百日ぜき・破傷風・急性灰白髄炎(ポリオ)の4種類の病気の事です。
ジフテリア菌の感染によっておこる急性感染症で、局所の感染症状と毒素による症状があります。
局所の感染症状としては、発熱・咽頭痛・嚥下痛などで始まるのどや呼吸器系の症状です。その後の毒素による症状には心筋炎や神経麻痺があります。
心筋炎は経過の不良な場合もあり、突然死を起こすこともあります。
末梢神経炎による神経麻痺は合併症の頻度として高いが、その後の経過は比較的良好だそうです。
風邪のような症状で始まり、そのあと連続性の激しい咳が発作性に起こります。
呼吸ができなくなり、チアノーゼと言って体に十分な酸素が行かなくなって体が青っぽく変色する事やけいれんを起こしたり、ひどくなると脳症を起こし後遺症を残すこともあります。この激しい咳は2か月ほどおこります。
母親からの免疫(経胎盤移行抗体)が期待できないため、乳児期早期から罹患し、1歳以下の乳児、ことに生後6 カ月以下では死に至る危険性も高いです。
百日咳ワクチンを含むDPT 三種混合ワクチン接種(ジフテリア・百日咳・破傷風)は我が国を含めて世界各国で実施されており、その普及とともに各国で百日咳の発生数は激減しています。最近は思春期や成人の長引く咳を特徴とする典型的でない百日せきの症例が見られ、乳幼児への感染源となる可能性が考えられています。
土の中に広く分布している菌で、外傷、火傷、挫創から体内に侵入します。侵入部で菌が増殖して毒素を作ります。毒素が中枢神経を侵しけいれんを起こします。けいれんの部位により口が開けられなくなる、全身に痙攣が起こるという事があり、死に至る場合もあります。
1968年には予防接種法によるジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチン(DTP)の定期予防接種が開始されました。以後、破傷風の患者・死亡者数は減少して、1991年以降の報告患者数は1 年間に30~50人にとどまっていますが、依然として致命率が高い(20~50%)感染症です。
1980年に世界保健機関(WHO)により根絶宣言が出された天然痘に続いて、WHOが根絶のために各国と協力して対策を強化している疾患です。
2000年にWHO西太平洋地域では地域における根絶宣言が出され、同じくヨーロッパ地域でもまもなく根絶宣言が出されようとしており、全体的には確実に患者数の減少に向かっています。
しかしながら、アフリカ、南・東アジアなどでは、経済的・政治的不安定を背景にして、まだまだ対策が充分に効果をあげていないことが危惧されています。
糞便中に排泄されたウイルスが経口または咽頭から体内に侵入します。
このウイルス感染症のほとんどは症状を呈しない不顕性感染に終わり、終生免疫を獲得します。
感染者の1,000~2,000人に1人に麻痺を生じ、一部のものは永久麻痺を残します。
以前は保健所で経口生ポリオワクチンを接種していました。
生ポリオワクチンで、ポリオによる神経麻痺の発症が抑えられたのですが、ごくまれではありますが、経口生ポリオワクチンの重大な副反応であるワクチン関連麻痺がおこることが生ワクチンの普及による発病率の低下により逆にクローズアップされることになり、不活化ポリオワクチンへ変更されています。
乳幼児の嘔吐下痢症の主要な病原ウイルスの一つです。ロタウイルスに感染すると嘔吐や下痢を生じます。
下痢は水のような便になり、脱水症をおこします。入院して点滴をして(脱水症の治療)下痢が治まるのを待つというのが治療の基本ですが、中には重症化して治療に苦労する症例が有ります。
世界ではロタウイルス感染症により5歳未満の小児が約50万人の死亡があるといわれ、その80%以上が発展途上国で起こっています。
しかし、ロタウイルスは環境中でも安定しており感染力が非常に強いため、たとえ衛生状態が改善されている先進国でもその感染予防はきわめて難しいです。
肝炎を起こすウイルスです。一過性感染と持続性感染の両方があります。
通常大人になって感染した場合は免疫の機能が十分に働くはずで、一過性の感染で終生免疫を獲得すると考えられてきました。
しかし近年感染したB型肝炎ウイルスが肝臓に潜伏し、免疫抑制療法や化学療法で再活性化して肝炎を発症することが報告されています。また、成人になってから感染しても持続性感染になる割合の高い遺伝子型Aと呼ばれるB型肝炎ワクチンが国内でも見つかるようになってきたので注意が必要になってきています。持続感染を起こすと慢性肝炎から肝硬変、その後肝臓がんになることが知られております。
通常日本では新生児期の感染(母子感染)で持続感染の状態になることが知られており、母子感染対策として一部の児に接種されてきました。
しかし、上記のように成人感染でも持続感染になるB型肝炎ウイルスもあり、海外では全新生児へのB型肝炎ワクチンの接種が積極的に進められています。
日本でも定期接種化への議論が続いています。
これは結核のワクチンです。結核は、結核菌を持っている人(菌陽性結核患者つまり結核を発病している人)が咳をしたときなどに飛散する菌で空気感染を起こします。
感染しても80%の人は肺や肺のリンパ節に病変を作るのですが治癒して終了しますが、中には肺病変の中に閉じ込められた肺結核が、10年、20年後に発病する事もあります。現在わが国でも毎年2万人以上が発病しており、その7割が60歳以上の高齢者ですが、小児、若年者の結核もみられます。
名古屋市は結核の発病者が多い方で、市も肺結核の減少に力を入れています。名古屋市はBCGの接種を保健所だけで行っています。生後3か月の健診を保健所で行い、同時にBCGの接種も行います。
麻しん風しん混合ワクチン:麻しんウイルスと風しんウイルスの混合ワクチンです。
麻しんウイルスによる全身感染です。ウイルスに感染して10日ほどたったところで発熱が始まり、2~3日発熱が続いてから高熱とともに発疹が出ます。発疹は3~4日間で消失してきます。麻しんは死亡例もある重症な疾患です。麻疹の二大死因は肺炎と脳炎です。
肺炎には、ウイルス性肺炎、細菌性肺炎、巨細胞性肺炎といった肺炎があります。
1,000例に0.5~1例の割合で脳炎を合併します。その約60%は完全に回復しますが、20~40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残します。致死率は約15%です。
稀ですが、亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis :SSPE)というのもあります。麻疹ウイルスに感染後、特に学童期に発症することのある中枢神経疾患です。発生頻度は、麻疹罹患者10万例に1人、麻疹ワクチン接種者100万人に1人です。
他の合併症には中耳炎、クループ症候群(喉頭炎および喉頭気管支炎)、心筋炎があります。
風しんは、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症です。
症状は不顕性感染から、重篤な合併症併発まで幅広く、臨床症状のみで風疹と診断することは困難な病気です。
風しんに感受性のある(抗体を持っていない)妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、出生児が先天性風疹症候群を発症する(赤ちゃんに先天性心疾患、難聴、白内障などを発症します。)可能性があります。
男女ともがワクチンを受けて、まず風疹の流行を抑制すること、そして女性は感染予防に必要な免疫を妊娠前に獲得しておくことが重要です。
妊娠中のワクチン接種は避けてください。
しかし、たとえワクチン接種後妊娠が判明したとしても、過去に蓄積されたデータによれば障害児の出生は1例もないので、妊娠を中断する理由にはなりません。
流行性耳下腺炎(mumps)は2~3週間の潜伏期(平均18日前後)を経て発症し、片側あるいは両側の唾液腺の腫脹を特徴とするウイルス感染症です。
通常1~2 週間で軽快します。最も多い合併症は髄膜炎で、その他髄膜脳炎、睾丸炎、卵巣炎、難聴、膵炎などを認める場合があります。
無菌性髄膜炎で臨床的に髄膜炎と診断されるのは1~10%あります。
最近は難聴への注意が促されています。小児科学会ではおたふくかぜワクチンの2回接種を推奨しています。
水痘-帯状疱疹ウイルスの初感染によっておこる急性感染症です。
潜伏期間は通常2週間程度で発疹と軽度の発熱を伴って発病します。
家庭内接触での発症率は 90%と報告されています。発疹出現の1〜2日前から出現後4〜5日、あるいは痂皮化するまで伝染力があります。
主にコガタアカイエカによって媒介され、日本脳炎ウイルスによっておこるウイルス感染症であり、ヒトに重篤な急性脳炎をおこします。
世界的には年間3〜4万人の日本脳炎患者の報告がありますが、日本と韓国はワクチンの定期接種によりすでに流行が阻止されています。
ヒトからヒトへの感染はありません。
増幅動物(ブタ)の体内でいったん増えて血液中に出てきたウイルスを、蚊が吸血し、その上でヒトを刺した時に感染します。
ブタは、特にコガタアカイエカに好まれること、肥育期間が短いために毎年感受性のある個体が多数供給されること、血液中のウイルス量が多いことなどから、最適の増幅動物となっています。
厚生労働省では毎年夏に、ブタの日本脳炎ウイルス抗体獲得状況から、間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調べています。
それによると、毎夏日本脳炎ウイルスを持った蚊は発生しています。
だから国内でも感染の機会はなくなっていません。予防が大切な疾患です。